一休.com Developers Blog

一休のエンジニア、デザイナー、ディレクターが情報を発信していきます

新サービス『YADOLINK』をリリースしました

新規事業本部、エンジニアの所澤です。

今回は4/19にリリースした一休の新サービス『YADOLINK(ヤドリンク)』についてお話します。

yadolink.com

YADOLINKとは?

YADOLINKトップ
TOPページ

YADOLINKはホテル・旅館に特化した写真投稿SNSです。「宿好きが集まり、心置きなく宿愛を語れ、それが誰かの役に立つ幸せな場所」となることを目指しています。

サービス立ち上げの経緯と開発体制

YADOLINKは一休.com のマーケターの提案からボトムアップで事業化が決まったサービです。 開発チームは社内公募で集められ、ディレクター、デザイナー、エンジニア2名の合計4人で約半年ほどの開発期間を経てリリースされました。

技術選定

技術選定にあたっては、

  1. 既存サービスの技術スタックに縛られない "もっとも良い選択肢" を選ぶこと
  2. 開発スピードを重視してなるべく素朴な作りにすること

を心がけました。

以下がYADOLINKの技術スタックをまとめた図です。

技術スタック

それぞれの詳細はまた別エントリで述べますが、簡単に各技術について所感を書いていきます。

React or Vue ?

一休.com も 一休.com レストラン もどちらも Vue を使って開発していまが、今回はあえて React を選択しました。 Vue を選ばなかった理由は、Vue2系の型検査に不満があったこと開発開始時点では Nuxt 3 の正式リリースの目処が立っていなかったからです。

既存サービスの開発チームとの人員の入れ替えがあるのであればコンテキスト・スイッチを減らすために Vue を選んだかもしれませんが、YADOLINKは完全に独立した開発チームなので React を選択することができました。

開発開始から2週間ほど経った頃にはすっかり React にも慣れ、Vue を使うのとそう変わらない速度で開発できるようになりました。

型に対する不満・不安もなくなり、堅牢な型に守られて快適な開発ができています。

Next.js を使うのか?

将来的にSEOで集客をしたいので、SSRができる Next を選びました。また、Next のレールに乗って開発効率を上げたいという狙いもありました。

現時点ではSSRはしていませんし、Vercel にデプロイしていないのでISRもできません。Next の真価をフルに発揮する構成ではありませんが、それでも Next を採用するメリットは十分にありました。

Zero Config で開発が始められることは React の開発経験があまりなかった私にとってもは非常にありがたかったですし、SWC はフロントエンドの「コンパイル遅すぎ問題」を解決してくれました。

Apollo Server、GraphQL、そして Universal TS

YADOLINKはフロントエンド開発の比重が大きいアプリケーションなので、2人のエンジニアがフロントエンド・バックエンドで役割分担をするのが効率的ではありません。一人のエンジニアがフロントエンドとバックエンド両方触ってもストレスが少ないように、サーバーは Node を採用して開発言語を TypeScript に統一しました。

Prisma, Nexus, GraphQL Code Generator を採用したこともあっ、てDBからフロントエンドの Component まで、アプリケーションの隅々まで型情報が行き渡り非常に安心して開発ができています。YADOLINKは現時点ではあまり複雑なロジックもないこともあり、型がアプリケーションの品質の多くの部分を保証してくれています。 コンパイルが通れば不具合がほぼない という状態です。

TypeScript の強力な型システムの力をフルに引き出して効率的な開発ができています。

一休と新規開発について

さて、簡単ではありますが新サービスの開発についてご紹介しました。

採用面接に出るとしばしば「一休は成熟したサービスを運営しているが、新規開発することはあるのか?」と質問を受けます。 おそらく、既存サービスの改修だけでなく新規の開発でバリバリコードを書きたい、という思いがあっての質問だと思います。

答えは『YES』。既存サービスにも大規模な機能を追加を頻繁に行っていますし、今回のYADOLINKのようにまったくの新サービスを開発することもあります。

(実は、今もいくつか新サービスの開発が動いています)

ちょっとでも興味を持ってくれた方がいたらカジュアル面談などで気軽にお話しましょう!

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meety.net

Yahoo! トラベルと一休.com のシステム統合プロジェクト

今から二ヶ月ほど前、10/1 に Yahoo! トラベル のリニューアルが完了しました。このリニューアルは、一休.com と Yahoo! トラベルの2システムを一つに統合することで実現しました。

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ご存知の通り、ヤフーと一休は同じグループに所属する企業です。ざっくりいうと「同じグループで2つの宿泊予約システムを開発し続けるのは効率が悪いよね」という話があり、今回のシステム統合に至っています。

Yahoo! トラベルと一休のシステム統合は、(1) 2017年頃にホテルの空室管理や予約、決済、精算業務などを担うバックエンドのシステム統合を行い、そして (2) 今回 2021年春先から半年ほどをかけて、ユーザーが利用する画面も含めた全面統合を行いました。全面統合は総勢で 50名ほどのディレクター、エンジニア、デザイナーが関わる一休的には大きな規模のプロジェクトになりましたが、目立ったトラブルもなく、先日無事リリースすることができました。

それぞれ数百万人以上のユーザーを抱える二つのサービスの統合・・・となると、聞こえ的にもまあまあ派手な部類かなと思います。その裏側を少しだけですが、お伝えしていこうと思います。

デジタル・トランスフォーメーション (DX) が進んでいる宿泊予約

まず前提として宿泊予約の業務は、おそらく世間での印象よりも DX が進んでいるという背景を先に。

Yahoo! トラベルや一休は、全国のホテルや旅館から空室情報 (「在庫」と呼ばれます) を預かり、それをオンラインで販売するサイトです。オンラインの旅行会社ということで OTA (Online Travel Agency) と総称されています。

ホテルや旅館の方々は日々 OTA の管理画面から自分たちの施設の空室情報や料金を手で入力して・・・と言いたいところですが、それはずいぶんと昔の話です。

2010年代前半頃にはホテルのフロント業務を担うシステムである「PMS (Property Management System) 」、ホテルからみると複数ある OTA に在庫や料金情報を一括登録してくれる「サイトコントローラー」、そして我々 OTA のシステム。これらバリューチェーンが API でリアルタイム連携するデジタル化が完成しています。

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OTA は複数あれど、部屋数は有限。各 OTA に登録された在庫を予約やキャンセルが行われるたび同期しないとオーバーブッキングが発生してしまいます。PMS、サイトコントローラー、OTA 間の情報の流れがデジタル化されたことで、在庫はほぼリアルタイムに同期されているのが昨今です。(そしてホテルの PMS は、そこから更にホテルの基幹システムへ繋がっています)

現代の OTA は、サイトコントローラと通信して在庫・料金設定を受け取りそれを販売、宿泊施設と連絡を取って顧客の決済、予約〜宿泊・精算までのプロセスを管理するのが主な仕事というわけです。ホテルから見ると予約業務のフロントエンドである PMS さえ操作していれば、複数の OTA から予約が集まってくる・・・ざっくりいうとそういうシステム連携が実現されています。

この宿泊予約バリューチェーンのデジタル化により、OTA では日々の空室状況をもとに需給に応じてルーム価格を変動させるのが容易になりました。結果、航空券などと同様、旅行業界はダイナミック・プライシングが当たり前の世界になっています。

話は逸れますが、ほぼ同じ構造のデジタルトランスフォーメーションが、ホテル宿泊業界に10年遅れて、飲食店業界でも進み始めています。なぜ宿泊予約で10年先にそれが起こり、遅れていま飲食業界なのか・・・というテーマも面白い話なので、また別途書いてみたいと思います。

2017年に実施した Yahoo! トラベルと一休.com のバックエンドシステム統合

さて、一休が Zホールディングスグループ (当時は Yahoo! Japan グループ) に参画した 2016 年には、Yahoo! トラベルと一休.com は、当然、それぞれ別のシステムとして動いていました。営業を含む組織も二つの会社に分かれて存在していました。

これは経営的な全体最適の視点からいくと、たとえば同じホテルにグループ内の二つの会社から営業にいってしまうし、同じ機能をいつも二回開発する必要があったりと何かと効率が悪いわけです。複数あるサイトコントローラーともそれぞれのシステムから接続して、それぞれが在庫をもらっているという状況です。「会社が一緒のグループになったのだから、システムも一本化して合理化しようじゃないか」と当然考えますよね。結果のシステム統合プロジェクトです。

なおシステムを統合するといっても、サービスまでは統合しません。一休には一休のお客さんがいてヤフーにはヤフーのお客さんがいるし、一休は高級・ラグジュアリー指向でホテルや旅館を厳選していて、一方のヤフーはビジネスやレジャーを得意としています。顧客基盤も、商品もブランドも違うので「システムは一つに。サービスは二つに」というのがシステム統合の目指すべきところとなりました。

ここまではいいとして、ご想像の通り難しいのはここからです。

特に、どちらのシステムを主体としてマージを行っていくのか (あるいはどちらも捨てずに玉虫色のシステム統合を行うのか)。 ここが最大の論点になります。喧喧諤諤の議論を経て結論「一休のシステムを主とし、ヤフーのバックエンドシステムは捨てる。ヤフートラベルのフロントから業務処理を一休のバックエンドに API 通信で依頼する方式で統合」となりました。

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2社間のシステム統合は、ここの意志決定が非常に大事・・・というのが私なりの持論なのですがその辺りの考察は最後に回しましょう。

まだお互いグループになったばかりでいろいろ大変ではありましたが、バックエンドのシステム統合を行って営業活動を一本化することで様々な業務密度があがり、そのシナジーで双方大きく業績を伸ばすことができました。ホテル施設からそれぞれのサービスへの在庫のデータフローも一本化されて綺麗になりました。

2021 年、フロントエンドも含めたシステムの全面統合

バックエンドシステムの統合を行ってから数年間は一休 / ヤフーそれぞれの販売面はそれぞれで開発・運用を行ってきました。 たとえば昨年の Go To Travel の対応なども、バックエンドの業務処理開発は一休にてまとめて実施。フロントはそれぞれが持っているので、それぞれのサービスで対応、みたいな形で実施しています。

ここで改めてグループの宿泊予約事業全体をここから更に成長させていくには、高級にフォーカスしている一休よりもより市場規模の大きいセグメントを対象にしている Yahoo! トラベルの成長が重要と考えました。

一方、一休はその黎明期から OTA をやってきたこともあってより良い顧客体験、ユーザーインタフェース作りには自信があります。そこで一休が構築した UI や顧客体験を Yahoo! トラベルにも横展開できるようバックエンドだけでなくフロントエンドも一休とシステム統合、今後は Yahoo! トラベルを一休が、一休.com と一緒に開発し Yahoo! トラベルのユーザー体験を大きくアップグレードしよう・・・という話になったのが直近の全面統合です。

システムを統合するといっても、やはり Yahoo! トラベルと一休.com は別のブランドとしてそれぞれのサイトでサービス提供していくので、Yahoo! トラベルの基礎になっている顧客体験部品・・・たとえばヤフードメイン、ログインアカウント、ロイヤリティプログラム (プレミアム会員特典)、PayPay や T ポイントなどの決済・ポイント手段・・・は維持しながらもシステム統合を行ってユーザーインタフェースや CRM は一休.com の体験に寄せるというのを基本方針としました。

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分かりやすさ重視でざっくり説明していますが、簡単なプロジェクトではありません。冒頭でも触れた通りディレクター、エンジニア、デザイナー総勢で 50名が関わる大きな取り組みになりました。

ヤフー株式会社と株式会社 一休は、同じグループ企業でも、別会社である

このシステム統合特有の難しさとして「ヤフーと一休は同じグループではあるものの、実際は別の会社である」ことからシステム統合にいろいろな制約がかかるという点がありました。

たとえば、プライバシーの問題。

Yahoo! トラベルの利用者はヤフーのユーザーであって、一休のユーザーではありません。従って、Yahoo! トラベルのユーザー情報を安易に一休のそれと照合するわけにはいきません。その逆も然りです。然るべきタイミングで第三者同意を得て、その上で情報のやりとりを行う必要があります。

たとえば、企業秘密の技術の問題。

例えば Yahoo! Japan のログインセッションを、一休のシステムで復元するかどうか。その復元にはヤフーがもつ暗号ロジックや、セッション管理ロジックが必要になりますが当然それらは企業秘密なので、一休がもらうことはできません。つまりログインセッションを簡単には共通化できない。でも、Yahoo! Japan でログインしているのに Yahoo! トラベルで別途またログインが要求される・・・ではいけてない。

同じ企業の中で2つあるシステムを統合する場合には、考えなくてもよい課題も多いですね。これらの制約を考慮しつつもドメインは変えず、ログインも当然 Yahoo! ID でのログインができて PayPay も使えて、UI は 一休.com のそれを継承している・・・というシステムに仕上げる必要がありました。

システム統合の要所を決める

本システムの統合はこの2社間の制約が大きかったので、この制約を前提としたシステム連携方式全体の設計を考えるところからスタートしました。

  • あくまで今後の Yahoo! トラベルの運営は一休が主体となるため、一休のシステムを主としてそちらに寄せるのが基本方針とする
  • travel.yahoo.co.jp ドメインを利用しながらも、アプリケーション実装は一休のものを使う。インフラは一休のそれにデプロイする ・・・ ではヤフーのドメインを直接一休のエッジサーバーに割り当てるのか、ヤフーのエッジサーバーから L7 ルーティングするのか。一部ヤフー側に残るページが存在するためヤフーのエッジサーバーで制御し、L7 ルーティングで一休システムにトラフィックを割り当てる
  • ログインセッションは Cookie によるセッション共有では実現できない。ヤフーに OAuth プロバイダになってもらい、OAuth をベースにした自動認証の仕組みで連携する。ユーザーからみると自動でセッションが引き継がれたように振る舞う。OAuth であればユーザー自身による第三者同意のタイミングが明確に存在するので、プライバシーの課題もクリアしやすい
  • 第三者同意を得ていない状態で閲覧される画面遷移と、第三者同意を得た上で閲覧される画面遷移の境界をクリアにし一休システムとのデータ連携はその境界をまたいだ後に行われるようにする
  • メールもヤフーのドメインで送信したい。一休のメール送信システムをヤフーの SPF に認可してもらってそれを可能にする
  • ・・・などなど他多数

「ヤフーのサービスである形を維持しながら、一休のシステムに寄せる」という基本方針をぶらさずに、以上のような問題を、ヤフーの CTO やコマース部門の CTO と協議しながら一つ一つ片付けていきました。

これはヤフー CTO 藤門さんのツイート。殴り合いだったらしいです。

さて、上記が決まってくるとビジネス要件決めにまつわる制約事項がクリアになるので、ここから体験・機能の取捨選択など業務要件決めです。業務要件については OTA 固有の話が多いので、ここでは割愛。

実装方針を決める

更に、アプリケーションの実装の方針も固める必要があります。

  • UI は実装をコンポーネントレベルで共通化したい。そのためソースコードは、一休のシステムと同一ソース (レポジトリ) で一休 / ヤフーの両サービスを実現する
    • コードベースを fork してしまうと、二重管理が発生する。それは避けたい
    • そのため一休の設定コンテキストで Nuxt、Go、.NET などのアプリケーションをビルドすると一休.com のアプリケーションに / Yahoo! トラベル設定コンテキストでビルドすると Yahoo! トラベルアプリケーションがビルドされるようにする。つまり、同じコードベースでもアプリケーションが一休として動くのか、Yahoo! トラベルとして動くのかは静的に確定させる方式
  • この方式で、同一レポジトリではあるものの、それぞれのサイトのアプリケーションは分離できる。他方のサイトの障害がもう一方のサイトへ波及しないよう、デプロイ先の EKS クラスタはそれぞれのサービスごとに別環境で実行し、エッジサーバーのルーティングでトラフィックをドメインに応じたクラスタへ振り分ける
  • フロントエンドは、一休がもともとコンポーネント指向で開発してる。2サイトの UI は基本的にはスタイルこそ違えど、動きは同一になるので小・中規模のコンポーネントは共有し、Tailwind CSS のテーマ機能などを利用してプレゼンテーションレイヤの上位層の実装でその差異を吸収する
    • 根本的に2サイトで要求される挙動が異なるコンポーネントの場合は、それぞれのサイトごとにコンポーネントを開発する
    • (※ という方針でやってみたが、100% うまくいったとは言えない状況 ・・・ 本プロジェクトで得た知見と反省を活かして、デザイン・システムの整理を始めている)

など、開発を進めるにあたり「ここはどうすれば?」というポイントを数名のメンバーで意志決定していきました。

プロジェクトの早い段階で、新システムをデプロイできる環境を用意する

システム統合の全体設計、機能要件、開発方式の基本的なところが固まってくるとチームごとのロードマップがクリアになるので、ぼちぼち開発に着手できる状態になります。

ここで、一休の場合はいつもやっていることなんですが、新しいシステムのビルドパイプラインを開発開始とほぼ同時に構築してしまいます。開発のメインブランチにマージされたアプリケーションが即座にステージングのクラスタにデプロイされるようにします。

こちらのスライド にもあるのですが、一休では本番環境にあるデータベースを (個人情報など秘匿性の高いデータはマスキングした上で) 開発にレプリカする仕組みがあって、開発を本番環境相当のデータを使っておこなう・・・ということを習慣化しています。これを新 Yahoo! トラベルの開発環境にも適用しました。

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これにより、プロジェクト開始直後から (まだ何一つ実装はできていませんが) Yahoo! トラベル版ビルドのアプリケーションの動作を、みんなで一箇所で確認できるようになります。しかも本番相当のデータを利用していますので、プロジェクトの早い段階にラフに作った実装で、実際のサービス提供イメージを動くもので確認することができるわけです。

チーム間同士にまたがるシステムの結合部位の特定が容易になりますし、結合テストも気軽に実行できます。常に動くものをベースに議論できるので、関係者間の認識合わせ / 認識ずれの発見もイージーです。ディレクターが日常的にこの環境で進捗を確認することで、要件の対応漏れも早期に発見することができます。

習慣化してやってきたことですが、この手の大規模プロジェクトでは改めて、とても有用なプラクティスだなと感じました。

ついでに、レガシー改善も一気に進める

ところで、こういうビジネス的な大義名分のある大規模開発のタイミングというのは、レガシー改善を一気に推し進めるチャンスです。

普段だとビジネスを停めない前提でレガシー改善をするのに思い切ったシステムリニューアルに踏み込めないこともあるわけですが、こういう大規模プロジェクトのタイミングは、技術基盤を根底から刷新するですとか、そういうことが相対的に小さな扱いになるしついでにやれるのであれば、プロジェクトゴールのための手段としても合理的に肯定しやすい。

ただし、システム統合をはじめるよ、という段階で一緒に新基盤も投入するのはビッグバンリリースになっていろいろと危ういですね。日頃から少しずつ新基盤の開発と導入を進め、プロダクション環境での安定性を確保しながら虎視眈々と、こういう大きく動ける機会を狙う・・・というのがビジネスを停めないレガシー改善戦術のひとつだと思います。

というわけで、以前から進めていた Nuxt + Go での新開発基盤で、システム統合スコープに含まれる領域を塗り替える作業も同時に進めました。

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新システムの成果

駆け足で紹介してきました。さすがに1エントリでは詳細まで書き切ることはできないので、今回はこの辺まで。

そもそも、このシステム統合の結果はどうだったのか気になるところですが

  • 年始から検討、4月頃から開発に着手。当初リリース目標の9月中旬を前倒ししてカットオーバー
  • AB テストの結果、従来サイトのパフォーマンスを、新サイトが大幅に上回ることを確認。100% リリースに至る

となりました。

プロジェクト責任者としては、AB テストの結果をみてほっと胸を撫で下ろしたところでした。

システムの統合によって UI を含む販売面の体験が一休のそれに近づいたことで使いやすくなった・・・というところもありますが、今後の発展性を考えると、Yahoo! トラベルと一休.com のデータウェアハウスが一つ二統合されたということも大きいと思っています。2つの OTA のパフォーマンスを、マスターデータ管理ができた状態で分析ができますし、最近では一休のお家芸にもなったマーケティングオートメーション・・・ 機械学習を利用した、顧客行動に最適化した CRM を Yahoo! トラベルにも展開することができるようになりました。今後が楽しみです。

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考察

現在はリリース後の改善を進めているところです。 一休.com と実装を共通化したため、一休.com で検索機能の改善を行うと、少ない手数で続けて Yahoo! トラベルの検索も改善される・・・という開発リソースの効率化が力を発揮し始めています。

以下、システム統合プロジェクトの考察です。

マネジメント視点でみた場合、2社間のシステムを統合するにあたってはトップダウンアプローチで「どちらのシステムを主体にするのか」を、大枠のアーキテクチャ + 業務処理フローも含めて意志決定を行うことが肝要だと感じました。

2社間のシステムの統合は計算機的な意味での「システム」を統合するのだけでなく、組織や業務フローまで含めた統合になります。そこにはそれぞれの会社の社員が関わってきますし、合理的な判断で物事を進めようとすれば、当然いろいろな痛みも伴うわけです。統合前からやっていたプロジェクトが中止になることもあるし、組織の責任者やレポートラインも大きく変わります。二つの組織で異なっていた働き方や文化もある程度、どちらか一方に寄せていく必要があります。

そういう痛みを発生させる責任を引き受けて、合理的なジャッジをしていくというのはトップマネジメントの仕事ではないか・・・と思います。

ことシステムに関して言えば、合理的判断を保留し忖度によってシステムアーキテクチャを歪めてしまうと、諸々が複雑になりその後の開発や業務に大きなダメージを与えてしまう・・・というのはこの記事を読まれている方であれば、想像に難しくはないと思います。

こういう意志決定をボトムアップで正しく実施するのは難しいというか、正直良いアプローチが思いつきませんでした。

とはいえ、トップダウンで、より詳細な要件や実装まで全てを決めていくのは不可能です。従って、ここまで見てきたとおりどちらのシステムを残して、どちらを捨てるのか。連携にまつわる重要箇所のインタフェースをどうするのか。プライバシーやセキュリティ、法務イシューをどのような手段で、クリーンに解決するのか。アプリケーション開発で各チームが共通して守るべき実装方針は何か。こういった全体方針をある程度トップダウンで決めて個々のチームの依存関係をほぐし、独立して動ける状態を作るまでが、マネジメントの最初の仕事だと思います。そこから先は、各チームがボトムアップで自分たちの領域を自分たちのやり方で進めていくのが良いでしょう。

特に一休の場合は内製の開発チームで、もう何年も一緒にやっている組織なのでチームや個々人の強みもお互いによく理解していますし、方針さえ決まればあとはボトムアップで品質、工数感やスケジュールを外さずにゴールに到達できるだろうという予感はありました。

任せるとはいっても規模の大きなプロジェクトになるので、いくつものチームが同時並行で開発を行います。互いの進捗を常に結合し状況を見える化しておくのは、プロジェクト進行の大事なプラクティスです。ビルドパイプラインとステージング環境を早期に構築したのはボトムアップで動く複数のチームの合流ポイントを早い段階で用意し物事がうまく進んでいるのか進んでいないのかを明らかにしたかったため・・・というわけでした。

おまけ

プロジェクトが成功した・・・ということで会社からプロジェクトメンバーの自宅に差し入れが届きました。 みんなで集まってパーティとはいかない時期ですが、こういう労いもまた粋だなあと思いました。

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一休では常時、Yahoo! トラベル、一休.com を含む一休のサービスを一緒に開発してくれる社員を募集中です。

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宿泊サイトのPCリストを ASP.NET Web Forms から Go + Nuxt でリニューアルしました

こんにちは。 一休.comの開発基盤を担当しています、akasakasです。

宿泊サイトのPCリストページを ASP.NET Web Forms から Go + Nuxt でリニューアルしたお話をさせていただきます。

詳しいお話をする前に:PCリストページってどこ?

こちらになります

https://www.ikyu.com/tokyo/140000/

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宿泊PCサイト(検索導線)の問題点

ASP.NET Web Forms のレガシーアーキテクチャによる開発生産性低下

一休.comのほとんどはASP.NET Web Formsベースの独自フレームワークで構築されています。 大規模リプレイスをしたのが2009年頃なので、宿泊サービスを10年以上支えてきてくれました。 それ故、継続して開発をしづらくなってきたというのがあります。

似たような画面があり、修正コストが高い

PCリストには条件検索画面とキーワード検索画面の2つがありました。 見た目は似ているが、別ページなので、機能差分が発生していました。

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Go + Nuxtでリプレイス

Goの選定理由

Goが比較対象(.NET Core, Python)と比べて、総合的なバランスが最も良いと感じたからです。

  • Go
    • ○:パフォーマンス、クロスプラットフォーム、開発環境の成熟度など、バランスが良い
    • ×: Viewを書く言語としてはイマイチ(html/templateとRazorを比べると、圧倒的にRazorの方が良い)
  • .NET Core
    • ○:宿泊メンバーの既存スキルを活かしやすい
    • ×:採用面が弱い
  • Python
    • ○:レストランで採用している
    • ×:パフォーマンスは.NET CoreやGoに見劣りする

Nuxtの選定理由

  • レストランサイトで採用している
  • 公式の日本語ドキュメントが整備されている
  • 技術的ジャンプが少なくモダン開発を始められそう

画面統合でシンプルに

  • 余計な修正コストがかからないように
  • 機能差分が発生しないように

するために、画面統合することでシンプルにしました。

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Before/After

Before

トップページからの検索が2つ(キーワード・条件検索)分かれていたため、修正コストが高くなっていました。

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After

統合したことにより、導線もシンプルになりました。

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現在の移行状況

現時点でのGo+Nuxtにリプレイス済みのページは以下になります。

  • SD トップページ
  • PC リストページ

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目標

中期的には以下を目標としています

  • Go+Nuxtで主要導線をリプレイスすること
  • 主要画面の統廃合

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まとめ

宿泊サイトを ASP.NET Web Forms から Go + Nuxt に移行中です。 一緒にGo + Nuxt で一休宿泊サイトを作り直していきましょう。

hrmos.co

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ヤフーのInternal Hack Dayに参加しました

こんにちは。
宿泊事業本部のいがにんこと山口です。id:igatea

去年同様ヤフー社内で毎年開催されているハッカソンイベント「Internal Hack Day」が先日7/31~8/2に開催されました。
そのハッカソンに去年参加していたZ Holdingsのアスクル、一休、PayPay、ZOZOテクノロジーズに加えてLINEの参加が決定し計6社での開催となりました。
今年は自分と同僚に加えて、LINEの方とチームを組み参加させていただきました。
この記事ではInternal Hack Dayに参加してきたレポートを書きます。

Internal Hack Day

去年と被るところが多いですが改めてInternal Hack Dayの説明をさせていただきます。
Internal Hack Dayはヤフー社内で毎年行われている社内向けのハッカソンイベントです。
チームを組んでテーマに沿った新しい機能やサービスのアイデアを出し合い、短い期間で作り上げて競い合うイベントとなっています。
チームは自社だけで組んでもいいですし、他社の方と組むことも可能です。

Internal Hack Dayのルールは以下の通りです。

  • 開発時間は24時間、9:00~21:00の2日間
  • プレゼン時間は90秒

去年はコロナウイルスの流行もあり、テーマが「新しい生活様式での課題解決」でした。
今年はZホールディングスの新しいシナジー送出がテーマです。
開発、発表は去年同様原則オンラインで行うことになっています。

ハッカソン向けに技術提供もあり、LINE CLOVEA OCRやLINE Messaging APIなど一部APIをハッカソン限定で無制限に使えるようにしていただきました。
今回僕たちは使いませんでしたが次機会があれば使ってみたいですね。

しかも今年はランチの提供があり自宅まで特性お弁当が届くというサービスがありより一層イベントっぽさが出るものとなっていました。(いい感じの弁当だったので写真撮っておけばよかったです)

みんなの避難経路

僕たちは「みんなの避難経路」というものを開発しました。

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これはどういうものかというと、災害時の避難所への最適な避難経路が分かる、というものです。
災害時に避難所に行くためにはいくつかの課題があります。

  • どこに避難すればいいのか
  • 水没しやすいところや封鎖されやすいところ、移動が大変なところなど迂回しなければいけない場所はどこか
  • 災害で通れなくなっているところがあるかも

こんな問題を解決したいと思って開発を行いました。

以下の国土交通省が提供している避難所データを元に災害種別に応じて近所の避難所をGoogleMap APIを使用して表示しています。
指定緊急避難場所CSVデータ 市町村別公開日・最終更新日・ダウンロード一覧|国土地理院
避難所までの経路はGoogleMap APIの経路探索APIで引いています。
そこから定期的に現在位置が記録されていき、それが別の同じ避難経路を指定したユーザーに見えるようになっています。
これによってどこが人の通った実績があり確実に通ることができる場所かを把握することができるようになります。
通常経路を他のユーザーが皆避けているようであれば、他のユーザーと同じように経路を変更するという選択が取れるようになります。
課題としては実際の経路自体はそこを考慮して経路変更を行えていないのでハッカソン内では間に合いませんでしたがここも対応したいところですね。

結び

年に1回のイベントで数少ないグループ内他社とのイベントでとても楽しかったです。
また何かやりたいですね。

ヤフーさんの方でも記事を上げているのでそちらもどうぞ https://techblog.yahoo.co.jp/entry/2021081830172653/

テキストデータのかさましを実装する

はじめに

データサイエンス部の平田です。 ディープラーニングのモデルを作る際、学習データが少ないことが原因で精度が上がらない場合、データのかさまし(augmentation)を行うことがあります。

画像の場合は、オリジナルに対して回転させたりノイズを少し加えることで同じラベル付けがされている別の画像を作り出すことができ、それを学習データに加えることで頑健なモデルになります。

ただし、テキストの場合は回転させると意味不明になるのでどういう操作をしてかさましするかというのを考える必要があります。

そこで、EDA(Easy Data Augmentation)というものが考案されました。参考

  • Synonym Replacement:文中の単語の内n個、同義語に置き換える
  • Random Insertion:文中の単語をランダムに選んで同義語にしてランダムな場所にinsert、n回繰り返す
  • Random Swap:文中の二つを入れ替える n回繰り返す
  • Random Deletion:確率αでランダムにそれぞれの単語削除

上4つの操作の内どれか一つをランダムに行って一つの文から沢山の文を生成する手法です。n=α×テキストの単語数とします。αは自由に変えられるハイパーパラメータで、文章の内どのくらいの割合で単語を操作するかという意味になります。 論文中では英文のデータセットで行っていましたが今回は日本語の文で試してみました。また、同義語に置き換える方法をWordNetからとChive(Word2vec)からの2通り試しています。

実装

EDA

まず文中の単語を分けるために、分かち書きをする必要があるのですが、その前に単語を引数に取って同義語を返す関数を定義します。 Wordnetから「Japanese Wordnet and English WordNet in an sqlite3 database」をダウンロードしてきます。

conn_sqlite = sqlite3.connect("wnjpn.db")
re_alnum = re.compile(r'^[a-zA-Z0-9_]+$')

# 特定の単語を入力とした時に、類義語を検索する関数
def search_similar_words(word):
    # 問い合わせしたい単語がWordnetに存在するか確認する
    cur = conn_sqlite.execute("select wordid from word where lemma='%s'" % word)
    word_id = 99999999  #temp 
    for row in cur:
        word_id = row[0]

    # Wordnetに存在する語であるかの判定
    if word_id==99999999:
        return []

    # 入力された単語を含む概念を検索する
    cur = conn_sqlite.execute("select synset from sense where wordid='%s'" % word_id)
    synsets = []
    for row in cur:
        synsets.append(row[0])

    words = []
    for synset in synsets:
        cur3 = conn_sqlite.execute("select wordid from sense where (synset='%s' and wordid!=%s)" % (synset,word_id))
        for row3 in cur3:
            cur3_1 = conn_sqlite.execute("select lemma from word where wordid=%s" % row3[0])
            for row3_1 in cur3_1:
                words.append(row3_1[0])

        
    return list(set([w for w in words if not re.search(re_alnum, w)]))

例えば「美味しい」の同義語は、

print(search_similar_words('美味しい'))
# => ['快い', 'きれい', '素適', '善い', '好いたらしい', 'いい', '好い', 
'ナイス', '心地よい', '可愛い', '麗しい', '旨味しい', '好ましい', 
'すてき', '良い', '綺麗', 'よい']

こんな感じになります。美味しいと可愛いは同義語?というのは置いといて、ポジティブなワードが並んでいます。

実装は@pocket_kyotoさんの記事を参考にしました。英単語が混じっているので取り除く処理もしています。 のちほど比較のためにべつの同義語取得関数も作ります。

続いて文を単語に分解する分かち書きですが、使いやすいsudachiを利用することにします。

pip install sudachipy==0.5.2
pip install sudachidict_core
from sudachipy import tokenizer
from sudachipy import dictionary

tokenizer_obj = dictionary.Dictionary(dict_type="core").create()
mode = tokenizer.Tokenizer.SplitMode.A

以上でsudachiライブラリの導入ができました。上記4つの操作をランダムに行うEDAをごりごり実装していきます。同義語を抽出する単語は名詞と動詞、形容詞だけにします。また、単語を変換する際、動詞の活用は気にせず終止形だけ使うようにします。

alpha = 0.3 # 単語を操作する割合
N_AUG = 16 # 一文から増やす文章の数(倍率)、500: 16, 2000: 8, 5000: 4
def synonym_select(target_token):
    if target_token.part_of_speech()[0] == '動詞' or \
        (target_token.part_of_speech()[0] == '形容詞' and target_token.part_of_speech()[1] == '一般'):
        target_word = target_token.dictionary_form()
    else:
        target_word = target_token.surface()

    synonyms = search_similar_words(target_word)

    if len(synonyms) > 0:
        replacement = random.choice(synonyms)
    else:
        # 同義語が無かったら置換しない
        replacement = target_token.surface()
    
    return replacement

# Synonym Replacement 文中の単語の内n個、同義語に置き換える
def synonym_replacement(text_tokens, text_split, text_length):
    n = math.floor(alpha * text_length)
    indexes = [i for i in range(text_length) if text_tokens[i].part_of_speech()[0] in ['名詞', '動詞', '形容詞']]
    target_indexes = random.sample(indexes, min(n, len(indexes)))
    
    for i in target_indexes:
        target_token = text_tokens[i]
        replacement = synonym_select(target_token)
        text_split[i] = replacement
        
    return text_split

# Random Insertion 文中の単語をランダムに選んで同義語にしてランダムな場所にinsert、n回繰り返す
def random_insertion(text_tokens, text_split, text_length):
    n = math.floor(alpha * text_length)
    indexes = [i for i in range(text_length) if text_tokens[i].part_of_speech()[0] in ['名詞', '動詞', '形容詞']]
    target_indexes = random.sample(indexes, min(n, len(indexes)))
    
    for i in target_indexes:
        target_token = text_tokens[i]
        replacement = synonym_select(target_token)
        random_index = random.choice(range(text_length))
        text_split.insert(random_index, replacement)
        
    return text_split

# Random Swap 文中の二つを入れ替える n回繰り返す
def random_swap(text_split, text_length):
    if text_length < 2:
        return ''.join(text_split)
    
    n = math.floor(alpha * text_length)
    target_indexes = random.sample(range(text_length), 2)
    
    for i in range(n):
        swap = text_split[target_indexes[0]]
        text_split[target_indexes[0]] = text_split[target_indexes[1]]
        text_split[target_indexes[1]] = swap
        
    return text_split


# Random Deletion 確率pでランダムにそれぞれの単語削除
p = alpha
def random_deletion(text_split, text_length):
    return [t for t in text_split if random.random() > p]

# Easy Data Augumentation 
def eda(text_tokens, text_split, text_length):
    results = []
    for _ in range(N_AUG):
        text_tokens_c = copy.copy(text_tokens)
        text_split_c = copy.copy(text_split)
        
        random_number = random.random()
        if random_number < 1/4:
            result_arr = synonym_replacement(text_tokens_c, text_split_c, text_length)
        elif random_number < 2/4:
            result_arr = random_insertion(text_tokens_c, text_split_c, text_length)
        elif random_number < 3/4:
            result_arr = random_swap(text_split_c, text_length)
        else:
            result_arr = random_deletion(text_split_c, text_length)
            
        results.append(''.join(result_arr))
    return list(set(results))

実際に例文を入れていきましょう。

お肉がとても美味しかったです。食後のコーヒーが別料金(210円)なので、そこだけ注意です。
=>
おミートがとても美味しかったです。食後のカフェーが画然たる勘定(210円型)なので、そこだけ注目です。

「画然たる勘定」という新たな語彙が生まれました。

Chive(Word2Vec)

同義語を持ってくる別手法として、単語をベクトル化して類似度が高いものを選ぶというやり方も考えられます。今回は単語をベクトル化する手法として一番オーソドックスなWord2Vecを使い、WikipediaをコーパスとしたChiveを利用します。gensim用のv1.1 mc90 aunitをダウンロードして適切な場所に置きます。

vectors = gensim.models.KeyedVectors.load("chive-1.1-mc90-aunit.kv")
def search_similar_words(word):
    thre = 0.6
    try:
        result = vectors.most_similar(word, topn=20)
        return [r[0] for r in result if r[1] > thre]
    except:
        return []

search_similar_wordsを置き換えることでChiveバージョンの関数を定義できます。

ちなみに、同じく美味しいの同義語を見てみると

print(search_similar_words('美味しい'))
# => ['美味', '激旨', '味', '絶品', '食べる', '甘み', '焼き立て', 'サラダ', 
'うまうま', 'スープ', '食べ応え', '食感', '香ばしい', '熱々', 
'風味', 'ジューシー', '揚げ立て', '御馳走', 'あっさり味', '塩味']

こんな感じになります。WordNetよりカジュアルですし、後半は唐揚げ感あります。

差し替えたバージョンでもEDAの例を見てみます。

お肉がとても美味しかったです。食後のコーヒーが別料金(210円)なので、そこだけ注意です。
=>
1. お胸肉がとても美味しかったです。空腹の水出しが各料(210¥)なので、そこだけ呉々です。
2. お肉がとても美味しかったコーヒーショップです。
¥食後のコーヒーが別料金(210円)な違う間食のでジューシー金額、細心ソーセージそこだけ注意です。

美味しいお肉が出てくるコーヒーショップは行ってみたいですが、意味変わってる気がしますね。

評価モデル作成

実際に文を増やしたことによる効果を検証したいと思います。今回は、レストランの口コミ文だけから評価点(1~5)を予測するタスクを考え、正解データとどれだけ離れているかを調べることで定量的に効果を計算します。

BertJapaneseTokenizerと、LSTMを使用します。

# LSTMで検証
from transformers import BertJapaneseTokenizer
from keras.preprocessing.sequence import pad_sequences
tokenizer = BertJapaneseTokenizer.from_pretrained('cl-tohoku/bert-base-japanese-whole-word-masking')

MAX_WORD_COUNT = 256

x_train = pad_sequences(df_sample_train['text'].apply(lambda x: tokenizer.encode(x)), maxlen=MAX_WORD_COUNT)
y_train = df_sample_train['total_score']
x_test = pad_sequences(df_sample_test['text'].apply(lambda x: tokenizer.encode(x)), maxlen=MAX_WORD_COUNT)
y_test = df_sample_test['total_score']

以下でモデルを作成します、指標として平均二乗誤差を利用します。

# ベクトルを入力としてLSTMでregression
from keras.preprocessing.sequence import pad_sequences
from keras.layers import LSTM, Dense, Embedding, Dropout, Input
from keras.models import Model

vocabulary_size = len(tokenizer) + 1  # 学習データの語彙数+1

text_in = Input(shape=(MAX_WORD_COUNT, ), dtype='int32', name='text_in')
x = Embedding(input_dim=vocabulary_size, output_dim=32, mask_zero=True)(text_in)
x = LSTM(128, return_sequences=False)(x)
x = Dropout(0.1)(x)
out_score = Dense(units = 1, name='out_score')(x)
model = Model(inputs=text_in, outputs=out_score)

model.compile(optimizer = 'adam', loss = 'mean_squared_error')

model.summary()

モデルに実データを入れて実験です!

history = model.fit(
    x_train,
    y_train,
    batch_size=64, epochs=5,
    validation_data=(x_test, y_test)
)
min(history.history['val_loss'])

例えばval_lossが0.7だと実際の評価点と予測の評価点が平均±0.7だけ離れていることになります。小さい方がより性能が高いということになります。

結果

学習に使う文の数を500, 1000の二通りについて見てみます。 また、バッチサイズはEDAのときは64, なしのときは4にします。同義語の抽出はWordNetを使っています。

500文の場合

EDA val_loss
なし 0.795
α=0.05 0.771
α=0.1 0.783
α=0.2 0.734
α=0.3 0.730

EDA無しの時と比べてval_lossが低い(=性能が高い)ことが分かりました。また、αは大きい方が性能が良くなっています。

1000文の場合

EDA val_loss
なし 0.709
α=0.05 0.714
α=0.1 0.723
α=0.2 0.650
α=0.3 0.666

1000文の場合は学習データが増えているので全体的にval_lossは低くなっています。 また、α=0.2の場合はEDA無しと比べて性能が良くなっています。

αが低いときはEDA無しより性能が悪くなっているので、適切なαの設定は重要なことが分かります。

500文(Chive)の場合

今度はWord2Vecの事前学習済みデータChiveを使った同義語抽出に変更した場合の性能を検証してみます。

EDA val_loss
なし 0.774
α=0.05 0.766
α=0.1 0.727
α=0.2 0.725
α=0.3 0.707

こちらも性能が良くなっています(0.774 -> 0.707)。同性能が出るなら実装の手軽さからChiveを使う方が良いかもしれません。

結論

基本的にはEDAを行うことで性能が上がることが分かりました。特に文章数が少ないときほど効果的です。学習データが少ないときには試してみてはいかがでしょうか!

一休新入社員の在宅勤務記録

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はじめまして、システム本部CTO室の松村です。
私は去年の4月に一休に入社しましたが、当時は緊急事態宣言の真っ只中でした。
一休も感染拡大防止のために多くの人が在宅勤務になり、私もいきなり週5で在宅で働く事になりました。
それから1年以上働いた経験から、一休での在宅勤務はどんな感じだったのか、新人だった自分はどんな感じで業務を行っていたのかについてご紹介したいと思います。

概要

一休では10人以下のチームで1つのプロダクトの開発を行っていますが、 チームで開発をすすめる上で、重要な要素だと感じた以下の3つについて説明していきます。

  1. チーム内外とのコミュニケーション
  2. 会話によるコミュニケーション
  3. 開発のフロー

チーム内外とのコミュニケーション

一休は日常的なコミュニケーションの手段として、以前からSlackを利用しています。
Slack内には様々なチャンネルがあり、全社共通のチャンネルや部署・チームごとのチャンネル、 開発向けのデータやアラートが送られてくるチャンネル、 趣味のチャンネルなどがあります。
私は以前の会社で社内の連絡手段として主にメールしか使えなかったので、以下のような点でSlackのメリットを感じました。

  1. 短文で必要な内容だけ伝える事ができる
  2. 過去の報告や議論などを全体やチャンネル毎に検索することができる
  3. メンションにより、特定の人やグループに即座に呼びかける事ができる
  4. 申請のワークフローや、営業から開発への問い合わせなど部署間のやりとりをシステム的に行うことができる
  5. スタンプを使うと雰囲気が柔らかくなる 🎉

また、一休のエンジニアには 「times」という個人のチャンネルを持っている人が多いです。
一般的には「分報」と呼ばれるようなスタイルのチャンネルで、 個人の技術メモや興味を持ったニュース、今日食べたものなど様々な内容を投稿しています。
在宅勤務だと直接会話をする機会が減るので、こういったチャンネルを見れば個人のパーソナリティを知る事ができますし、 特定の誰かに相談したい事があれば、本人のtimesチャンネルに投稿すれば必ず見てもらう事ができます。
ダイレクトメッセージだと二者間の閉じた会話になってしまいますが、timesを使えば 気になった人が会話に割って入る事ができますし、後から検索する事ができます。

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timesイメージ1

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timesイメージ2

会話によるコミュニケーション

一休ではビデオ会議用ツールとしてZoomを使用しています。
オンラインでは普段は簡単に行っていた「隣の人と会話する」という行動もハードルが高くなるので、 ログインせずにすぐに使う事が出来るZoomのメリットは大きいです。

チームによって方針は異なりますが、以下の2点を行う事で 「何も分からない」や「全然違う」状態を防ぐ事ができていると思います。

  1. 朝会、夕会などを毎日行い、認識合わせや報告を密に行う
  2. 何かあったらすぐ相談する

チームごとのZoomのURLがあれば定期的なミーティングは毎回そこに入るだけで済みますし、 SlackとZoomが連携しているのでSlackのコマンド1つでミーティングを作成する事ができます。
Slack内のビデオ通話だと能動的に招待しないといけないので、そのあたりが気軽にできるのがとてもありがたいです。

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zoomミーティングをコマンドで作成する

開発のフロー

複数人が関わるプロダクトは開発中の各段階で確認や連絡などのコミュニケーションが必ず発生するので、 コミュニケーションのコストが大きくなる在宅勤務では、開発のフローも大事になってきます。

私は入社してすぐ小さなタスクをいくつか任されましたが、実際のプロダクトにデプロイするのが非常に楽だと感じました。 以下のように、開発のフローがきっちり定まっているのが要因だと思います。

  1. コードはGithubで管理、レビューする
  2. CIが整備されていて、自動テスト、テスト環境や実環境へのデプロイが簡単にできる
  3. 重要なアラートはSlackに通知が来る
  4. プロダクトのログやサーバのデータなどがDatadogに集約されている

それぞれの点について、詳しく説明していきます。

Githubによるコード管理、レビュー

コードの変更はGithubのプルリクエストを利用して管理します。
PR内で指摘や議論ができますし、SlackにURLを貼ればすぐに変更点を見に行けます。
新人でも 指摘→修正→確認 の流れがスムーズに行なえますし、常に他人にレビューしてもらう事を意識すれば、 自ずとコードやPRの内容も良くなる(はず)です。

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コードレビュー

CIによる自動テスト、デプロイ

CircleCIによるCIを導入しているため、PRに対して事前に自動テストが動いています。
また、特定のブランチにマージすれば、テスト環境や実環境に自動でデプロイするようになっています。
これにより、自動テストが通らないようなコードを早い段階で発見する事ができますし、 デプロイ時にやるべき作業が最小限になるので、本当に確認すべき内容に集中して、ボトルネックなく開発していくことができます。

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特定のブランチにマージするとデプロイ

重要なアラートはSlackに通知が来る

プロダクトや各種監視ツールがSlackと連携しているため、問題が生じた際には即座にキャッチする事ができます。
デプロイ完了通知なども投稿しているので、他の場所を見にいかずに済みます

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グラフ付きアラート

プロダクトのログやサーバのデータなどがDatadogに集約されている

サーバのログやステータスなどはDatadogに記録しています。
エラーや遅延など全て関連付けられて記録されているので、 エラーが起きた時や動作が遅い時などは、原因がDBなのかサーバなのか、どういったメッセージが表示されているのかを簡単に辿る事ができ、 原因の切り分けがスムーズに進みました。
一休のDatadog利用については詳しい記事があるので、こちらもご覧になってください。
Datadog Log Management でアプリケーション稼働モニタリング - 一休.com Developers Blog

おわりに

SIerだった前職とは作るものもスピードも開発手法も全然違う中での在宅勤務でしたが、
おかげさまで「在宅勤務だから辛い」と感じる事もなく仕事を続けていく事ができました。

今回紹介してきた内容に関わるシステムやツールは導入や開発記事が過去の記事にあったりするので、興味がある方はぜひ読んでみてください。

プロダクト開発で大事にしていること

こんにちは。宿泊事業本部 プロダクト開発部 UI/UXチーム の 岡崎です。
今回は、「個人的」に「プロダクト開発で大事にしていること」をテーマに話を進めます。

概要

大事にしている事は下記3つあります。
それぞれにフォーカスして話を進めます。

  • 1.「ユーザーファースト
  • 2.「チームワーク
  • 3.「アーキテクチャ

なぜ大事にしているのか?

  • 「ユーザーファースト」

    • ユーザーに価値を届けられないプロダクトは「無意味」である為
  • 「チームワーク」

    • 良いプロダクトを生み出す為に「自分が不得意な分野の知識を借りる」事が必要不可欠である為
  • 「アーキテクチャ」

    • 速いサイクルでプロダクトの改善をする為に必要不可欠である為

「ユーザーファースト」を大事にする

Q.「ユーザファースト」を大事にするとは?
A. ユーザが使い心地の良い機能かを考える事

私の場合は、これをまず最初に考えてプロダクト開発をします。
具体的には、以下のテクニックを利用しています。

  • 1.軽く機能を作成してフィードバックを得る
  • 2.最終的なUI/UXの決定を長けている人に任せる
  • 3.CVRを確認する

軽く機能を作成してフィードバックを得る

エンジニアにありがちなのが、手段と目的の逆転現象です。 例えば、モダンなUIフレームワークを利用して、イケているデザインを作ろう。 という風に考えると破綻します。
手段を考えるよりも先に「どうしたらユーザが困っている事を解決できるか?」を考えて プログラミングに臨むことが大事だと思います。
そのためにも、HTML/CSS/JavaScript だけで静的なコンポーネントを作ってみて「そもそも使い勝手良いんだっけ?」 と社内のメンバーにフィードバックを得るなどの行為は大事になってくると思います。

最終的なUI/UXの決定を長けている人に任せる

「デザインスプリント」「アジャイル開発」などのフレームワークでは、 「皆で議論して」「付箋」「ホワイトボード」... などのワードが目立つと思います。
「皆で議論する」... 事自体は、問題ないですが、最終的に「誰がUI/UXを決めるか?」は大事になります。 「民主主義」で決めたり「エンジニア」が決めてしまう場合は、「それぞれの欲しいデザイン」になりがちです。 UI/UXに関する内容の決定権は、「ユーザの行動分析が得意な人」や「デザイナー」に責任をもってもらう事が重要だと思います。

CVRを確認する

CVRを確認する理由は、「CVRが上昇≒ユーザが使いやすいと思っている」という方程式が成り立ちやすいからです。 そのためにも、以下は大事になってくると思います。

  • A/Bテストの仕組みを整えておくこと
  • カナリーリリースの仕組みを整えておくこと
  • データレイクにデータを送信する仕組みを整えておくこと
  • 分析基盤を整えておくこと

「チームワーク」を大事にする

Q.「チームワーク」を大事にするとは?
A. チームが「プロジェクトに対して上手く進んでいるか」かを考える事

私の場合は、具体的には、以下のテクニックを利用しています。

  • プロジェクトがうまく進んでいるかを客観視する

プロジェクトがうまく進んでいるかを客観視する

まずは、心理的安全性の確保などは考えず「プロジェクトがうまく進んでいるか?」を考えます。 理由は、うまく進んでいる場合はチームが上手く回っている事が多いからです。
チームが良くなってもプロジェクトが上手くいかなければ意味がありません。
プロジェクトを上手く進めるうえで結果的にチームが上手く連携がとれている状態を目指すのが良いと考えています。 私の場合は、以下を意識 / 実践しています。

  • マイルストーンが明確になっている事の確認

    • 大枠のスケジュール(いつまでに / 誰が / 何を ) が明確になっている事
  • タスク管理 / タスクの優先度付けがちゃんと行われている事の確認

    • 個々人の持ちタスクなどが把握できる状態になっている事
  • プロジェクトを進めるうえで出てくる課題をベースにチームメンバーと会話をする

    • 会話をする事で個々人の詳細な状況を把握 / 対策を考える
    • メンバーと会話を行う事で自分の頭の中の整理を行う
  • 「一緒に」プロダクト開発を行うという意識を持つ

    • チームメンバーが時間がかかっているタスクに対して積極的に介入する
  • 知っておくと開発においてスムーズになる情報を分りやすくドキュメント化する

    • アーキテクチャ や 実装指針
    • デプロイ/リリース手順
    • なぜ開発を行う必要があるのかの背景を説明したドキュメント

「アーキテクチャ」を大事にする

Q.「アーキテクチャ」を大事にするとは?
A. 開発者が「分りやすい設計 / 実装」を心がける 事

私の場合は、具体的には、以下のテクニックを利用しています。

  • 1.データフローを統一化する
  • 2.ビジネスルールをテストしやすいコードにする
  • 3.レイヤを責務毎に分けて実装する

データフローを統一化する

Redux や Vuex などの「一方向アーキテクチャ」や 「伝統的なレイヤードアーキテクチャ」 がなぜ分りやすいかというと 「処理が行われる順番が決まっている」という点です。
「処理が行われる順番」が決まっていない場合は、循環参照などの 危険性も出てきます。
以下を実践すると良いのかなと思っています。

  • ディレクトリ単位でレイヤ分けをする
  • レイヤがどの順番で処理を行うかを決める

ビジネスルールをテストしやすいコードにする

ビジネスルールをテストしやすいコードにしておくとメリットが多くあります。 そのためにも、ビジネスルールのレイヤ(=Domain)をデータベース通信などのI/Oに依存しないようにすることが 大切になってきます。
なぜなら、データベースに存在する情報は、日々変化するものである為テストが常に同じ結果になるとは限らないからです。
「ダミーのデータをテストコードで扱えるよう」に「常に同じ結果」を返せるような設計にすると良いと思います。
データベース通信などの実処理に依存するのではなく、「データベース通信などの実処理を行った結果、 どういうDomainのデータが欲しいか?」を書いたインタフェースに依存するようにした方が良いと思っています。

ビジネスルールを単体テストしやすくすると、以下のようなメリットがあります。

  • 以下が分かる事で開発速度・テスト速度が向上する
    • テストコードで仕様が分かる
    • テストコードがある事によって追加の修正 ...etc で、デグレが起きていない事を確認できる

レイヤを責務毎に分けて実装する

既に出ていますが、責務毎にディレクトリ(レイヤ)を分けてSOLIDな実装をすると良いと思います。 特に大事なのは、ビジネスルールを他のレイヤに依存させないプレーンな実装にすると良いかなと思います。

因みに弊社では、「オニオンアーキテクチャ」を採用している箇所があり、「ビジネスルール」/ 「外部とのI/O」/ 「プレゼンテーション」 にそれぞれ分かれています。
「ビジネスルール」が他の「外部とのI/O」や「プレゼンテーション」に依存していない為 以下のメリットを享受できています。

  • テストコードが書きやすい
  • 「同じビジネス文脈で利用されているビジネスのルール」の再利用がしやすい

最後に

この記事で「伝えしたいことを一つにしろ」と言われたら、 「手段と目的」を逆転させず「プロダクト開発」を成功させるように動く事が大事だという事を発信したいとおもっています。

ヘルプデスクに Halp を導入して改善した話

f:id:rotom:20210521184904p:plain

社内情報システム部 コーポレートエンジニアの大多和(id:rotom / tawapple)です。 最近はオフィスファシリティと、Jamf Pro や Dialpad や、情シスの採用をやっています。

今回は情シスの業務において外すことのできない、社内のヘルプデスクを改善した話をします。

一休のヘルプデスクについて

これまでのヘルプデスク

2018年の記事でも紹介している通り、一休では営業やコーポレート部門のメンバーを含めた全メンバーで Slack・Google Workspace を導入しています。

user-first.ikyu.co.jp

社内からのヘルプデスクについては、Google フォームに入力してもらった内容が Slack に自動投稿され、Slack のスレッドでやりとりを行い、問題を解決していました。

f:id:rotom:20210426174458p:plain

この方法を導入することで、口頭、電話、Slack など分散していた問い合わせ窓口を1つのチャンネルに集約することができました。

課題だったこと

一方で、この方法を使った運用にはいくつか課題点がありました。

対応状況のステータスが分からない

この問い合わせが対応待ちなのか、調査などの対応中なのか、すでに解決しているのか、忘れられているのか、といったステータスがひと目でわからず、スレッドでのやりとりや、絵文字でのリアクションでしか確認することができない状況でした。

これにより対応の抜け漏れが発生することがあり、改善点として挙げられていました。

スマートフォンから投稿しづらい

一休のメンバーは営業が6割を占めており、ホテル・旅館やレストランなどの取引先や移動中など、外出時に問い合わせを行うことも少なくありません。

Google フォームを使った問い合わせ方法は、情シスにとっては管理がしやすくなった一方で、ユーザーにとってはスマートフォンからの投稿に手間が多い状態でした。 ブログのドメインにもなっていますが、一休は全社を通して「ユーザーファースト」という、ユーザーにとっての価値を追求する文化が根付いています。

www.ikyu.co.jp

情シスにとってのユーザーは社員であり、この状態はユーザーファーストではありませんでした。 また、外出時の問い合わせは緊急を要することも多く、問い合わせから解決までをスピーディーに行う必要があります。

以上のことから、スマートフォンからも投稿しやすく、すばやく問い合わせができる仕組みをつくる必要がありました。

DM で問い合わせがきてしまう

上記の使い勝手の悪さもあり、Slack の DM で情シスメンバーに直接問い合わせがよくありました。

ヘルプデスクを DM で行ってしまうと他者からやりとりが見えないため、ナレッジが貯まらず同じ問い合わせが続いてしまう、対応が属人化し特定のメンバーに負荷がかかってしまう、対象のメンバーが離席していると対応が遅れてしまう、など多くの問題を抱えていました。

qiita.com

これらの課題からヘルプデスクにチケット管理ソリューションの導入を検討しました。

Halp について

ここで本題の Halp の登場です。ハルプと読みます。

www.atlassian.com

アメリカのスタートアップ企業が開発していたヘルプデスクソリューションで、2020年5月に Jira や Confluence などを開発する Atlassian が買収しました。

jp.techcrunch.com

一休では2020年7月から検証・評価を開始し、実用性の確認が取れたことから2020年10月に本導入しました。

Halp で改善できたこと

対応状況の見える化

f:id:rotom:20210513163114p:plain

Halp のコンソールより、チケットごとのリクエスター(ユーザー)、アサインエージェント、対応状況、最終更新日時が一覧で確認できます。 これにより、誰もアサインされていないチケットや、しばらく更新されずオープンのままのチケットなどを確認することができ、抜け漏れを防げるようになりました。

f:id:rotom:20210513163348p:plain

また、Halp のレポート機能により、チケットを拾うまでの応答時間(First Response Times)、解決までにかかった時間(Resolution Times)を表示することができます。 問い合わせの粒度がまばらなため数値は大きめになってはしまうのですが、ここの数値は少しでも小さくなるように意識し対応しています。

また、日ごとのチケット作成数や、アサインエージェントごとの担当チケット数もこちらから確認可能となっています。

Slack ネイティブな問い合わせと対応

Halp ではチケットの発行からクローズまで、Slack 上で完結することができます。

it-helpdesk のようなユーザー対応を行うヘルプデスク用チャンネルと itdept-triage のような情シスメンバー用のトリアージチャンネルの2つを用意します。

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ユーザーはチケットについて意識せず、ただ Slack のヘルプデスクチャンネルに問い合わせるだけで、自動でチケットが発行されます。

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Bot がチケットを発行した旨をスレッドに投稿します。このあとのユーザー対応はスレッドで行います。 このやりとりはすべてトリアージチャンネルと自動同期するため、情シスメンバーはトリアージチャンネルのみで対応可能です。

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情シスメンバー内での相談や依頼などは :lock: 🔒 の絵文字を先頭につけることで、ヘルプデスクチャンネルには自動同期されず、やりとりをすることができます。

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ステータスの更新、クローズまで、すべてチケット操作が Slack 上で完結し、他のシステムやページを開く必要もありません。

これにより、ユーザーはヘルプデスクチャンネルだけ、情シスはトリアージチャンネルだけで問い合わせが完結し、 スマートフォンからも操作がしやすいSlack ネイテイブな対応が可能となりました。

DM 問題への対応

Halp は DM に対しても機能します。DM で届いた問い合わせにも :ticket: 🎫 リアクションをつけることでチケットが発行されます。

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発行されたチケットはトリアージチャンネルに自動投稿されるため、ナレッジを情シスメンバー内に共有することができます。 また、DM がチケット化されることで対応状況や対応件数も把握できるようになりました。

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日頃より DM ではなくチャンネルで問い合わせていただくようにアナウンス・誘導することも大切ですが、 実際に DM で問い合わせが来たときにチャンネルと同じようにチケット化する、というアプローチが取れるようになりました。

自動応答 bot

現在はまだ β ではありますが、「Halp Ansers」という自動応答の機能も開発されています。 現時点(2021/5)では日本語非対応なため、「Zoom」「SmartHR」などアルファベットの SaaS 名などで利用ができます。

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キーワードマッチで自動応答をすることで、適切な問い合わせ窓口へ誘導や、トラブルシューティングの URL やマニュアルを展開することができ、 かんたんな問い合わせであれば、bot で自己解決を促すこともできるようになりました。

終わりに

こうした業務の改善により、ユーザーにとっても使いやすく、情シスにとっても管理がしやすく、素早く問題が解決できる、 従業員体験を向上できるヘルプデスクを引き続き目指していきたいと思います。

さて、ここまで読んでいただいたあなたは、きっと一休の情シスに興味があると思います

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ご興味のある方はぜひご応募、ご連絡をお願いします。一度お話しましょう!

追記

SmartHR yamashu さんの記事でご紹介いただきました。 Halp を含めたヘルプデスクソリューションとの比較がわかりやすくまとまっています!

tech.smarthr.jp